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◇三兼・学パロ・三&兼幼馴染設定
キャー
校門の方から湧き上がる少女達の歓声に兼続は幼馴染の三成の登校を知る。
兼続の幼馴染こと石田三成はこの千石学園では知らぬ者はおらぬアイドル的存在。その容姿の整い具合と言ったらそこらの若手俳優やアイドルでもかなわぬほどだ。そんな三成、学園内にはファンクラブなるものもあって、朝の登校時間にはこうして歓声で三成を迎えるのである。
しかし今日はどうした事か、いつもなら一、二分でフェイドアウトしてゆく歓声がいつまでたってもおさまらない、しかもそれは歓声というよりも悲鳴に近いものがある。不思議に思っていた兼続だったが、ガラリと教室の扉を開いて入ってきた三成の姿を見て少女達の悲鳴の理由を知る
「み、三成?!どうしたのだ!」
「別にどうもせん」
そう言って顔を背ける三成、いつもならその横顔は流れる赤毛に隠されてしまうのだが、今はどちらをどう向いても顔を覆う赤毛は無い。
きれいな坊主頭になってしまっているのだ。
「どおりで、女子達が騒いでいたわけだ」
兼続はクスクスと面白そうに笑うが三成は憮然とした表情のまま、そして
「そんな事より兼続、あれは?」
「あれ?」
「昨日言っていただろう、あれだ」
「あ、あぁ、あの本の事か?持ってきたぞ」
三成が昨日借りたいと言ってきた本を鞄の中から取り出して手渡すと、三成はうんと頷くと礼も言わずにそのまま自分の席に戻っていった。
「どうしたというのだ?」
首をかしげる兼続、しかしこの日丸一日三成はそんな調子。何か腹を立てているのかと聞いてもそっけなく違うと返されるだけ、実際怒っている時の三成の態度とも少し違っている。
そして、とうとう三成の奇妙な行動の理由がわからぬまま一日を締めくくる部活動の時間になってしまった。
少し不安を覚え始めた兼続をよそに、部活の時間にも三成は後輩の幸村を呼び出して二人で体育倉庫の方へと消えた。
盗み聞きなんて不義は許されん、普段の兼続ならそう思うのだが、大好きな幼馴染の事となるとどうにも自制が効かない。足音を忍ばせた兼続は二人の消えた体育倉庫に近づいた。
−とても男らしいです
興奮気味に言う幸村の声が耳に届く。自分も真似しようか等と、それはどうやら突然の三成のイメージチェンジについて話しているようだ。
三成はと言えば、兼続の前ではあれだけそっけない反応をしていたくせに、そうか男らしいか?などと笑顔を浮かべて頷いている。普段の三成の不機嫌とは少し違う様子だったが、やはり三成は何か自分に腹を立てているのだろうか?しかしいくら聞いても何も言ってはくれない。幸村にはこんな顔を見せるのに……、と兼続はなんだか悲しい気持ちになってきた。
そこへ、三成の改まったような声が聞こえてきたので兼続は再び耳を欹てる事に集中した。
「ところで幸村、以前お前は俺と兼続が夫婦のようだと言っていたな」
「あ、はぁ…」
「それはどういう意味だ」
「え?と、特に深い意味はありませんが…お二人は本当に仲がよろしいし、お互い何でもわかっていらっしゃるようなので…」
兼続の中で不安が広がる。先程までは髪型を褒められて少し照れ笑いしていた表情が一変し今はなんだか鬼気迫るものがある。もしかして三成は自分が兼続とそこまで親密な間柄だと人に思われるのが嫌になったのではないだろうか、だからこうして突然兼続にそっけない態度をとりだしたのではないだろうか?そう言えば以前から三成は幸村に異常な程に甘く、兼続には見せないような一面も見せている、ひょっとしたら三成は幸村が……等とほんの数秒の間にありとあらゆる嫌な展開が兼続の頭の中で繰り広げられたのだが、三成の次の言葉にその思考は静止する事になる
「で、もし俺達が夫婦だったとしたら、嫁はどっちだと思う?」
「は?」
奇妙な三成の質問、幸村が上げた素っ頓狂な声は兼続の心の中のそれと重なった。
「だから、もし俺達が夫婦だったとしたらだ、嫁に見えるのはどちらだと思うと言っているのだ!……まさか俺ではあるまいと思うが…」
なんとも間の抜けた質問だが三成はいたって真剣である。
ポカンと口を開け我が幼馴染を遠めに眺めていた兼続だったが、
なるほど、だから……
昨日の出来事を思い出した。
昨日――、
退屈な日曜日の午後、時間をもてあました三成と兼続は二人でぶらぶらと街へ出かけた。偶然そこで兼続はバイト先の友人である慶次にであった。世間話をしていた所、たこ焼きが食べたいと買いに行っていた三成が兼続の分も携えて戻ってきた。
そこで慶次がこんな事を言ったのだ
――兼続、かわいい彼女がいるんだねえ、やるじゃないか。しかし、あんた彼女にたこ焼き買いに行かせるなんて思ったより亭主関白なんだな。
それを聞いた三成、別に兼続に頼まれたわけではない、と思い切り不快感丸出しの低い声で慶次を睨み付けて言った。
慶次は三成の低い声を聞いて、悪い悪いと大笑いし、その話はそこで終わった。……のだが、どうやら三成の中では終わっていなかったらしい。
突然のヘアカットと兼続への横柄な態度は、どうやら『男らしく亭主関白な俺』を演出したかったのだろう。
そう思うと兼続はおかしくて笑いが込み上げてきた。
そしてそんな可愛らしい幼馴染の為、兼続はしばらくは『よくできた控えめな妻』を演じてあげよう、そう思うのだった。