Incesto

近親相姦








  

【注・R−18】









――それから、

驚いた兼続が憔悴しきって座りこんでいる清正の姿をマンションの部屋の前で見つけたのは三時間ほど後のこと。

「清正?!」

少し赤くなった目元で見上げた清正は兼続の隣にあの男の姿が無い事を確認すると、ふっと息をはいて、項垂れながら肩を落とした。

「どうしたんだ?とりあえず中に入れ」

 促されてなんとか部屋に入り重い足取りで居間まで行くと清正はそのままソファに倒れこんだ。

「本当に、どうした?実家で何かあったのか?」

 心配顔でじっと清正を見つめる兼続、頭を撫でる優しい手つきに吸い寄せられるように清正は兼続の体に自分の身を寄せた。

 小学校の低学年の頃、喧嘩で負けてボロボロになって家に帰った清正はそれまで張り詰めていた糸が切れたように、こうして兄の身に体を寄せた時だけ涙を流して泣いていた。「男子がそんな事でどうする」と叱るような言葉をかける兼続だったがその声音はどこまでも優しく、触れる手は温かかった。安心した清正はそのまま眠りに落ちることもしばしば。

 兼続が、ふとその頃の事を思いだしていると清正は兼続の背に手を回しその胸に顔を擦り付けるようにした。

「清正……話してくれないか?どうしたのだ?」
「かね…つ…ぐ……」

掠た消え入りそうな声でやっと清正が声を発した。兼続はその言葉を聞き逃さないように耳を傾けて次の言葉を待った。

「兼続………、……だ…」

 清正が下を向いて、顔を胸に埋めているものだからどうもその声はこもって聞き取れない。
 もう一度言ってくれと促すように兼続が離れようとした瞬間、今度はさっきよりもきつく抱きしめなおすと清正はその顔を兼続の耳元へ持っていった

「好きだ」

 その声音は明らかに今まで『兄』である兼続をしたって「好きだ」と言っていたものとは違う、熱っぽいものが含まれている。
 清正の事は誰よりも分かっている兼続だからこそ、それがすぐに分かった。分かった兼続は驚いて清正の体を突き放そうとしたが、離さないと言わんばかりに力いっぱい兼続を抱きしめてくる。

「清正ッ痛い」
「じゃあ、逃げないでくれよ…。兼続、好きなんだ」

 全くの不測の事態に普段は冷静沈着な兼続の視線があちこちへ飛びその思考は混乱を極めている。そんな兼続に清正はわかってくれと言うように頬を捉え瞳を覗き込み、口付けをした。

 一瞬時が止まったように動きを止めた兼続だったが、次の瞬間清正を力いっぱい突き飛ばした。

「清正ッ!」

 うっすらと涙を浮かべ口元を拭いながら兼続は信じられないという表情で清正を見つめている。

「お前、何をしてるか分かっているのか!」

 突き飛ばされて下を向いていた清正がその言葉にキッと顔を上げた。上げたと同時に兼続に飛び掛り、そのままソファの上に押さえつけるように押し倒した

「分かってるよ!おかしいのは分かってる…でもどうしようもないんだ。嫌なんだよお前が他の奴と寝るのとか……」

 今日公園で兼続があの男に口付けられているのを見た瞬間、清正はものすごい嫉妬の炎に身を焼かれる思いがした。兼続をあんな風に人に触らせたくない、そう思った。そして、そう思った後気が付いた、自分が兼続に対して抱いていた思いは単なる兄弟への愛情ではないという事に。他の誰にも触れて欲しくない、自分だけはもっと兼続に近づきたい、心だけじゃなくて体も奪ってしまいたい、そんな欲望を持っている事に。

 ずっと大きな存在だと思っていた兄だったが、組み敷いて押さえつけてしまうと清正よりも幾分も細く、なんとも非力で本気で抵抗しているのだろうかと思えてくる。

「清正ダメだッ!」
「何でだよ!お前男と寝るんだろ!今日見たんだよお前が男とキスしてるのッ!」

 一瞬驚いた表情をした兼続だったが、それでもなんとか逃れようと身をよじる

「私はお前の兄なんだぞ」
「子供が出来るわけじゃないんだ、関係ねぇよ!」

 滅茶苦茶を言っている、そう自分で分かっていても清正はその手を止める事ができない。引き破るようにして兼続のシャツを脱がせるとその体のあちこちに乱暴に吸い後をつけた

――好きだ、好きなんだ

――苦しいよ兼続、

 ぎりぎりと爪が食い込む程に腕を押さえつけて、傷つけるような愛撫をしているのは清正の方なのに、その声はまるで傷つけられているかのように切なく苦しそうに響く。
 抵抗が弱くなった兼続のズボンを脱がせその性器に手をかけ清正はゆるくこすった

「あっ」

 それまで耐えるように目を瞑り唇をかみ締めていた兼続が声をあげた。

―もっと聞きたい

 清正は男と性交を持った経験はない、だが自分が男だからどこをどうされれば気持ちいいのかはわかる。兼続の中心を握り緩急をつけて上下させると兼続の息が次第に上がっていく。白くなる程にソファに食い込んでいた兼続の指はいつのまにか清正の腕にしがみつくようにしている。
 そろそろかと思って強くこすりあげると兼続がぶるっと体を震わせ再び声をあげた。そして、その腹の上に白濁した液体が滴り落ちる。

「兼続……お前が欲しい」

 だらりと腕をおろして荒く息をする兼続は清正と視線を合わせようとしない。だが抵抗する素振りもそれ以上は見せようとしなかった。
 清正は自分の衣服を脱ぎ捨てると兼続の腹の上の白濁を指で掬い上げた。それを指に絡めると兼続の後ろに指を滑らせた。窄まりの付近で突き入れるように指に力を入れると兼続がうっと声をあげ苦しそうに眉をしかめた。

「ごめん、できるだけ痛くないようにするから」

 ゆっくりと指を進めていく。一本の指でもそこの締め付けはきつい、これが自身ならばどれだけの快楽が得られるのかと思うと清正は気持ちがはやった。指を二本に増やした後、兼続の耳や首筋に今度は優しく口付けを繰り返していく。と、少し緊張が和らいだのか幾分かそこはやわらかくなってきた。指を引き抜き、ゆっくりと自身をあてがうと兼続の顔に再び緊張が走った。

「き…よま…さ」

 清正は行為の途中に名を呼ばれた事に異常な高ぶりを覚えた。兼続は半ばあきらめたように抱かれているのかもしれない、もしかしたらあの男の事を考えているかも知れないと思っていた。だから、名前を呼ばれた瞬間押さえがきかない程興奮する自分を感じた。傷つけないようにという自戒の念が消し飛び、一気に兼続を貫いた

「うっ……あぁ」

 痛みに再び兼続が涙を流した。その涙に罪悪感を感じつつも抗しがたい快楽の波に飲まれ清正は夢中で腰をやった

――好きだ

 何度もそう叫び、一度きりでは収まりきらぬ熱を何度も兼続にぶつけた。

「清正……」

 兼続は半ば意識を手放しそうになりながら、清正の頬に手をあてた、そしてわずかに笑んだように見えた。


 行為の後、朦朧とする兼続を抱き上げ寝室にはこぶとそのまま兼続の体を抱きしめて朝まで眠った。






 翌朝、後ろから抱きしめるようにして眠っていた兼続の肌が異常な熱をもって震えているのに気付き清正は飛び起きた。
 肩に手をかけ振り向かせると兼続は額に汗を浮かせて苦しそうに眉間に皺を寄せている。

「お、おいっ。大丈夫か」

 薄っすらと目を開けた兼続はか細い声で

「熱が出ただけだ……」

 だるそうにそう言うとまた目を閉じてしまった。

 犯すように身を繋げた昨晩の行為と、初夏とは言えまだ夜は冷えるのに汗をかいたまま裸で寝させてしまった事に激しい後悔の念を覚えた。
 濡れタオルを暖めて兼続の全身を丁寧に拭くとパジャマを着せて再びベッドに横たえた。

「何か欲しいもんあるか」

 目を閉じたまま首を横にふる兼続に清正は続けた。

「それじゃ一人で何もできないだろ、今日も泊まって行くから何でも言えよ。……昨日みたいな事はしない。ごめん」

 目を開けるのも億劫そうにしていた兼続がその言葉を聴いて身を起こそうとした

「駄目だ清正。今日帰るのだ、明日は学校があるだろう」
「おい、起き上がるなって。いいよ別に一日ぐらい休んだって」
「駄目だ。お前受験生なんだぞ、出席内申にも響くだろう」

 熱でまともに起き上がりもできないのにその言葉は頑としている。
 こうなると、何がなんでも兼続は自分の言う事を通す、熱のある体で清正を駅まで引っ張って行くと言い出しそうな勢いだ。そんな兼続の性格を知っているだけに清正も早々に折れる事にした

「分かったよ、じゃあ食べるもんだけ作ってから帰る」

 それを聞くと兼続も安心したように横になって目を閉じた。






 清正は簡単な雑炊を作ると再び様子を伺いに兼続の寝室のドアを開けた。
 よく眠っている。
 声をかけて帰ろうと思っが、起こしてしまうのが忍びなくそのまま部屋を出ようとした。
 が、どうしても足が進まない。もう一度兼続の元に戻ると清正は
「ごめん」
と一言つぶやいて兼続の口に口付けた。起きる様子はない。
 一度溜息をついて、今度こそ清正は部屋を出た。








 清正が実家に帰りついたのは日も暮れてからだった。
 葬式が終わってから早い時間の飛行機で帰っていた父母がどこへ行っていたのかと聞くのへ、正則の家となんとなく嘘をついた。

 誰と話すのも疲れる、そう思い夕食はいらないと告げると自室にこもってベッドに座りこんだ。


 兄弟として超えてはいけない一線を越えてしまった。
 最初は確かに拒否された、だが身体を繋げた時の兼続は応えるように名を呼んでくれた気がする、それはそう信じたい己の妄想なのか……
 熱を出した兼続に無理をさせる事もできず、その真意を聞く事はできなかった。
 もしも、次に会った時に弟としても拒否されたらどうしよう。
 もしも、昨日の兼続の反応が自分の感じた通りで受け入れてもらえるのならば、自分達はどうなるのだろう……


 何をどう考えてもこの関係の先に幸福な未来などありえないのにと苦笑を浮かべつつ清正は思った



――会いたい、早くもう一度会って抱きしめたい。














※色々言い訳

いや、言い訳をしても意味の無いぐらいぶっとんでるんですが。色々済みません。清正が気持ち悪くてすみません。
公式の清正の気持ち悪い程のマザコンぷりを見ていたらこういうのもありではないかと勝手に思ってしまいました。ごめんなさい。