Ellas

彼女ら








  





 潅木の茂みの向こうからキャッキャと乙女達が何やら話に花を咲かせているのを耳にした兼続はその姿が見える位置にまで近づくと腰を下ろし、微笑を浮かべた。

 甲斐姫とくのいちである。この二人がこうして話しているだけで男ばかりのむさ苦しい戦場に花が咲いたようになる。張り詰めた兵士達の緊張を少しは和らげてくれるその存在を兼続はありがたいと感じるのだった。もちろん兼続自身も癒されている兵士のうちの一人である。
 ふと二人が兼続の方に向き直った。何を喋っているのかまでは聞こえぬ程の距離だったので兼続は片手を上げてにこりと微笑んだ。すると何やら甲斐姫が奇声を上げた、続いてくのいちが何やら言うと走り去っていった。



――少し時間は遡って、こちらは先ほどの少女二人である



 肩を落としていじけたように足元の小石を蹴るくのいちと、そんなくのいちをふんぞり返って冷たい目で見つめる甲斐姫。



「まったく情けない!」
「……」
「あんたのだらしなさにはガッカリよ、あんたそれでも本当に忍なの?!」
「それとこれとは話は別ぅぅ」
「相手は男なのよ?!」
「だからなんだってのよぉ、幸村様のあの人へのぞっこんぶりを見たらあんただってわかるわよ」
「あのねぇ、いくらぞっこんでもあの人は男だし、しかも上杉家の執政!幸村様がいくら思ったって手が出せる相手じゃないんだから!私が慰めて差し上げます、の一言ぐらい言って振り向かせる努力したら?」

と、駄目出しで畳み掛ける甲斐姫の声が止まった。

「ちょっと、いるわよ」
甲斐姫は声音を下げるとくのいちの肩を拳でつっついた。
「わ、わかってるって」
 噂をすれば、くのいちの恋のライバル―本人には全くもって自覚はないが―登場、何やらこちらを見ているようだ。
 二人は同時に兼続の方に視線を向けた。すると、なんともさわやかな微笑で手を振ってくるではないか。甲斐姫は胸の前に両手を当てると天を向いてあーっと叫んだ。
「やっぱいい男ねぇ!あの笑顔に幸村様もやられたってわけ!納得、納得」
それからもう一度兼続、くのいちと順に視線をやって
「あんたじゃ無理かもね」
「ちょ、ちょっとあんた…ッ!!」
くのいちはこれでもかと言う程に頬を膨らませて顔を真っ赤にした、そして
「知らない!」
そう怒鳴りつけると踵を返すと走り去って行った
「あ、ちょ、冗談だってばー!!」
追いかける甲斐姫。



一人その場に残された兼続は乙女の苦悩も知らずに、やはり華やかでいいなどと暢気に思うのであった。