Clavel

カーネーション








◇政兼・現パロ・少女漫画的なノリです……






  

――つい口にしてしまった一言で一体どれだけ私はあいつを傷つけてしまったのだろう……

 勉強机に頬杖をついた兼続は目の前にぶら下がったカレンダーの日付を指でなぞってはもう何度目になるとも分からぬため息をついた。週明けには試験もあるというのにまるで手につかない。こんな気持ちのまま明日の日曜日も過ごさなければならないのかと思うと暗澹たる気持ちになった。

 
 兼続がこんな憂鬱な気分になった原因は今日の帰宅途中の出来事にあった。
 来週の試験に備えてと英単語の暗記をしながら下校中だった兼続の目に珍しいものが飛び込んできた。
 兼続とは犬猿の仲で校内でも有名な政宗の姿がある。いや、それだけなら何も珍しい事はないのだが、その政宗が花屋の中で必死に何かを探している様子なのである。
 
――あの政宗が花を?

 好奇心をくすぐられた兼続はその場に足を止めてしばらくその様子を伺っていた。
 どうやら誰かに贈るための花束を作らせているらしいが店員にあれやこれや細かい指示を出しては、気に入らないのか自ら別の花を選んできてを繰り返している。
 やっと花束が完成したころにはあたりは随分と暗くなっていた。
 満足そうに完成した花束をかかえて店から出てきた政宗、そこに突っ立っていた兼続の姿を見つけて少し驚いた、そして眉間にしわを寄せるとチッと舌打ちをした。見られたくなかったのだろう、兼続ももしあんなに必死に自分が誰かの為に花を選んだとすれば、そんな姿照れくさくて人には見られたくないだろうと思った。しかもそれが仲の悪い相手ならなおさらだ。
 一生懸命になって誰かの為に花束を作っていた政宗の姿を思い出し、こんな時ぐらいは悪態をつくのはやめようそう思って兼続は口を開いた

「綺麗な花束だな、お前にはそのような才能もあったのだな」
 
 お世辞ではなかった。赤いカーネーションを基調としたその花束はセンス良く仕上がっており、とても高校生のしかも男子がコーディネートしたものには見えなかった。
 だが政宗はフンと鼻を鳴らすと

「貴様に褒められても嬉しゅうないわ」

そう言ってそっぽを向いてしまう。
 それから、やはりいつもの様に喧嘩になってしまった。そしてしばらく言い合った後兼続はついこんな言葉を口走った

―― 誰にやるのかは知らぬが、お前のようなひねくれ者の作った花束など貰って喜ぶ者もおらぬだろうよ

その一言に先ほどまで兼続の一言一句に怒鳴り返していた政宗は口を噤んだ。そしてひどく傷ついた顔をした。
 兼続はしまったと思った。いくら仲が悪くいつも喧嘩ばかりしてるとは言え、言っていい事と悪い事がある。しかも兼続は政宗があんなに必死になって花束を作っていたのを見ていたのだ。
 しかし、謝ろう、そう思った頃には政宗の姿は兼続の前から消えていた。

 それから重い足取りで家に帰りついた兼続、やっとの事で自室にたどり着き勉強机の前に腰かけたところ、目の前にぶら下がっていたカレンダーにさらに重い気分にさせられた。


5月9日 日曜日 母の日−

 カレンダーの日付の下にはご丁寧に赤いカーネーションの絵まで添えられている。
 そう、あれは明日の母の日に政宗が母親の為に買った花束だったのだ。



 政宗と政宗の母親の話は兼続は直接政宗から聞いて知っているわけではないが、親友の慶次が政宗の親友の孫市と仲が良い事もあり慶次から聞いた事があった。
 なんでも政宗は兼続などには到底想像もつかないような超大金持ちの御曹司らしい。それを聞いた時兼続は、だからあのように甘やかされて我が強くなっているのではないか、などと慶次相手に普段の鬱憤を晴らすように嫌味を言ったものだが、どうも慶次の話はそんな方向にはいかなかった。
 金持ちが相続問題やら何やらで揉める等というのはドラマや映画だけの中の話ではないらしい。次男に愛情の全てを注ぎ家を継がせたいと考えていた政宗の母親は、長男の政宗を何かと敬遠し、政宗は寂しい少年時代を送ったようだ。それでも母親に振り向いて欲しくて母親の為にあれこれ気を使う政宗の話を聞いた時はさすがに兼続も心が痛んだ。

 兼続にも弟がいる。両親は自分達に分け隔てなく愛情を注ぎ、兼続自身もとても大切にされていると感じていた。だから、自分だけ愛されないとはどんな気持ちなんだろう、想像しただけで悲しい気持ちになったが、それはあくまで想像の域を出ない事を兼続も分かっている。実際に政宗の立場に立たされたなら悲しいなんて簡単な言葉ですまされるものではないだろうと思った。

 それから少しは政宗に優しく出来ればと思っていた兼続だったが、向こうが憎まれ口を叩けばつい言い返してしまう。複雑な家庭事情もあるし、政宗は一学年とは言え兼続よりも年下なのだ少しぐらいの事は笑って流せばいい、そうするべきだと思っている。思っているのに政宗を目の前にすれば口が先に出てしまう、自分はどうかしている。


 
 頭を抱えているとコツンと何かが窓ガラスを叩く音がした。立ち上がって窓の外を見ると慶次が手を振っていた。窓を開ければ、今から晩飯に行くが付き合わないかと、いつも慶次が行っている食堂の方を指さしている。こんな気持ちで一人で部屋で悶々としているのはたまらない、慶次の誘いに頷くと兼続はすぐに部屋を飛び出した。


「どうしたんだい、随分浮かない顔してるけど」
安い大衆食堂でお腹いっぱい食った慶次はあまり食事にも手をつけなかった兼続に心配顔で問いかけてきた
「うん……」
「どうした?なんか悩みか?」
「ああ……」
こりゃ随分と深刻そうだ、そう思った慶次は勘定を済ませると帰り道にある静かな公園に兼続を誘った

「で、どうしたね?」
「……。それが、実はな」

兼続は今日の午後にあった事を語った。そして最後には涙混じりである
「まぁ、兼続、泣きなさんなって。謝ればいい話だろう?」
慰めるように声をかけたが、兼続はそういう問題ではないと返してくる。

生まれてこの方ずっと愛情に包まれて育ってきた自分が、何も理解せず発した言葉でどれだけ政宗を傷つけただろうと、悔いても悔やみきれないと言って、涙を落とした。

「あぁあ、困ったねぇ」
そう言って慶次は兼続の背中を優しく撫でた。
「まぁ、今日の事もそうだけど、あんたそれ以外に政宗について気付いた方がいい事があると思うんだが。まぁ、俺が言う事じゃないと思って黙ってたんだけど」
兼続は赤くなった目を拭って慶次を見上げた
「気付いた方がいい事?」
「あんたさ、もし俺や三成が政宗みたいな口のききかたしたら怒るかい?」
慶次の質問の意味を理解しかねて兼続は眉をしかめた
「もし、あの母親との関係の話がクラスの他の誰かの事だったら、あんた泣く程思いつめるかい?」
「どういう意味だ?」
「俺は思うんだがな、全部政宗だからじゃねぇのかなって」
「?!」
「あんた政宗の事好きなんだろ」
「け、慶次!何を言っているんだ!」
「まぁ、あんただけが悪い訳じゃないがな。もうちょっと素直にならんと大事な青春時代無駄にしちまうぜ」
そう言うとベンチから立ち上がった慶次は大きく一つ伸びをして―帰るか―そう言うと歩きだした。
慶次の言葉に思考停止状態に陥っていた兼続は弾かれたように立ち上がって慶次を追いかける
「ち、違うぞ慶次!私はッ」
言いかけた兼続に振り向いた慶次が人差し指を立ててそれを兼続の口元へ持ってくる
「月曜日に花の事は謝るんだろう、それはそれでいい。それ以外の事は、俺に言わなくていいから自分と相談しな」
少し怖い顔をした慶次に兼続は次の言葉が続かなかった。その夜はそれ以上慶次も兼続も政宗の事は口にのぼせなかった。


――そしてその日から約一ヶ月


校内で犬猿の仲で有名だった政宗と兼続は、校内で有名なバカップルになっていた。











お粗末です。少女マンガなノリですんません。